【時計館の殺人】 綾辻 行人
館シリーズ5作目、時計館の殺人 読了しました。


館を埋める百八個の時計コレクション。鎌倉の森の暗がりに建つその時計館で十年前一人の少女が死んだ。館に関わる人々に次々起こる自殺、事故、病死。死者の想いが時計館を訪れた九人の男女に無差別殺人の恐怖が襲う。凄惨な光景ののちに明かされるめくるめく真相とは。第45回日本推理作家協会賞受賞。 (「BOOK」データベースより)


綾辻さん独特の、映像が鮮明に目に浮かぶ文章が冴え渡るこの作品。
凄惨な事件の後だというのに、ラストでは美しい映像と音が頭に浮かび、
小説を読みながらにして、まるで映画を見てるような感覚を味わいました。

これだけの長編なのに、そういえばあの時のあれって変じゃない?という
突っ込みどころがないのも素晴らしい。
途中、探偵が語る”時間の概念”論に、
「私にとって時間ってなんだろう?」と考えさせられたり。

お決まりのクローズドサークルも、わくわく、ゾクゾクさせられて、
そうそう、館シリーズといえばこれでしょう、と満足。
時計を模した旧館の間取りもものすごく好み。
今までの館と違い、時計館が時計館であらねばならない理由もあっぱれでした。


・・・しかし、水車館、人形館と犯人やトリックが推理できるものが続き、
そろそろミステリで思いっきり騙されたいという欲求が沸いてきたせいか、
今作でも、動機やトリックがおおよそわかってしまったので、そこが少々残念。
十角館みたいな、視界が180度変わるようなお話がまた読みたいなぁ。

もうひとつ、個人的に残念だったのが読後感。
綾辻さんの館シリーズは、割と読後感が良いものが多く、
そこが、好きなところのひとつでもあるのですが、
これはどうにも後味が良くなかった。
この探偵役の性格に、回を重ねるごとに苛々するようになってきたからかも。
だからこそ、常識派の助手役がいるのでしょうが。

迷路館同様、この館には絶対住みたくないです。
108個の時計がチクタクいうだけで眠れそうもないけど、
昼夜問わず、30分おきに一斉に時計の鐘が鳴り響くなんて、
殺人じゃなくても気が変になりそう。


以下、ネタバレ感想のため反転します↓↓

島田・福西が館に招かれた直後の奇妙な音と、
旧館で脱出を試みていた河原崎くんが出した音で、
あぁ、これは時間誤認トリックだと確信。
紗世子の数々の怪しい言動(島田宅の深夜の電話や、館に引き止める発言等)と
アリバイの件から犯人は紗世子だと早期に断定。
そう疑うと、落とし穴に落ちたのは永遠ではなく、
破傷風で亡くなったという彼女の娘ではないのか?まではなんとか推測できた。

―犯人は紗世子、時間誤認トリック。
そう推理すると、伏線のほとんどを拾いながら読むことができたのですが、
その音から時間を計算して、旧館内外で5時間のズレがあったので、
一日目の夜に全ての時計を進ませておいたと思っていたのです。
が、それだと2番目のの事件以降で、彼女のアリバイが成り立たない…。
江南が勝手に持ち歩いていた懐中時計まで進んでいたことも腑に落ちない。

・・・という感じで、メイントリックは半分当たり、半分外れという感じでした。
まぁ、仮に1.2倍の速さで時が進んでると気づけたとしても、
面倒で、内外の対照表を作る気力はなかったと思いますが^^;

この作品が秀逸だなぁと思ったのは、このトリックそのものより、
時計館が建てられた当初からすでに時間の流れが違っていて、
その目的が十分納得のいくものだったこと。
完全犯罪を実行するために、犯人が108個もの時計全ての時間の進み方を変える・・・
なんてことだったら、そんなの普通の人にはできっこない!と
少なからず白けると思うのです。
古峨倫典が時計館を造った目的が常軌を逸しているにも関わらず、
その世界観に頷けたのが、この作品の凄さだなぁと感じました。


探偵が変わり者なのも仕方ないことなのでしょうが、
さすがに今回という今回は頂けなかった。

江南くんが助かった直後、間髪入れずにいきなり探偵ごっこ。
襲撃された後、飲まず食わずの状態なのに、
まずは水を飲ませてやるとか、体を休ませてあげるとか、あるでしょうよ。

友人二人が危ない思いをしたのに、犯人に向かって
「自首するか、逃げるかはあなたの自由だ」という発言には怒りすら覚えました。
江南が悪夢の3日間を過ごした上、襲撃までされ、
福西は命を落としかけたのに、この感覚はちょっと理解できない。
そもそも、福西が命の危険に晒されたのは、島田が館に連れて行ったせいでもあるのに、
そのことを後悔している気配もない。

無実の人間が、9人もの人間を殺した殺人犯に仕立てあげられて、
何の罪もない人がたくさん殺されたのに。
その殺された人たちにも家族や友達がいて、
強い悲しみと怒りを覚えているだろうに、
自分だけが真実を知れたらそれでいいのかい?
真実を知りたいのは遺族の方だろうに、
友情より何より、自分の好奇心が常に一番のようで、
これが私の読後感をひどく悪くしてくれました。

最後に時計塔が倒れるシーンもね・・・
どうもわざとあそこで犯人を追い込んだように見えてならなくて。
あれだけ頭がいいのに、
あそこで犯人が死ぬかもしれないと予測がつかないとは思えないんだけどなぁ。

思えば、十角館の時からそうだった。
友人の触れられたくない過去に土足で踏み込んだ。
迷路館のときも犯人の良心任せ。
この人の行動理念は、一にも二にも自分の好奇心を満たすことで、
殺された人や遺族の感情なんかは考えない人なんよね。
私には、犯人の紗世子より、島田の心理の方がずっと理解不能でした^^;
この人とは絶対に友達になりたくないなぁ。

夫曰く、主人公格を好きになれないのは私の癖らしいので(←自覚なし)、
こんなことで苛々してる人はあまりいないかもしれませんが、
あんまりな探偵っぷりに書かずはいられませんでした。


しかし、江南くんってこんなにボンヤリした人だっけ?
十角館の時は割と頭の冴える学生だというイメージだったのに、
旧館内では大学生の瓜生くんに場の主導権を握られ、
外に出てもまだボンヤリしている。
早く隠し通路に気づいて、一人で部屋にこもらないように注意しておけば、
ここまで事態は悪化しなかったのに、なんて無粋なことを思ったり。
まぁ、島田のキャラクターがあまりにも極端なので、彼は非常に好感が持てますが。


そんなこんなで、5作目まで読んだ現在、一番好きなのはやっぱり十角館、かな。
本屋さんで見かけた、暗黒館のあまりのボリュームに面食らったので、
このまま続きの黒猫館に進むか、別の作品に寄り道してみるか悩み中。


谷山浩子さんの「王国」という曲がリンクしているとか。
最後のコーラスは綾辻さんだそうです。
怖くて不気味だけれど美しい、時計館の雰囲気が漂う曲。


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この記事のコメント
ついに十角館読みだしたよ~。
ヤバいよ、こんな時間なのに、続き気になって読んでます。
色々忙しいはずが、本を読むのだけは止められず。
さすがに寝なきゃ…。

谷山さん!
実は凄い好きなの。こんな所に出てくるとは!
とびっくりしてます。
この曲は聞いたことないけど、凄いいい!
でも、コーラスが綾辻さん?なんで??
2011-09-29 Thu 00:49 | URL | ミュシャ #- [内容変更]
> ミュシャさん
おお、本当ですか??
綾辻さん本、すごく読みやすくて、読み始めたら止まらないですよね^^
読み終わったら、良かったらまた感想教えてくださいね。

恥ずかしながら私、谷山さんを知らなかったんですが、
あのテルーの唄を作曲されたのも谷山さんだそうですね^^
この曲は『歪んだ王国』というアルバムに収録されてるらしく(wikipedia情報^^;)、
この「王国」と「時計館の殺人」という曲は、綾辻さんが作詞されてるのだとか。
(「時計館の殺人」の動画は見つけられなかった…。)

ふふ、私も本の話に反応してくれる方がいるとすごく嬉しいです^^*
あ、私も「魔性の子」を買い物かごに入れつつ、
最近「屍鬼」もすごく気になってて。
読みたい本がたくさんあるのって、なんか幸せですね^^
2011-09-29 Thu 10:32 | URL | こゆりす #- [内容変更]
こゆりすさんすごーい!半分(それはもう半分以上じゃない?)当てちゃうなんて!
私全然わかりませんでしたよ~
ただただこわくて(笑)、そしてトリックと館の成り立ちに
ただただ圧倒されてました。
しかもここまで島田につっこめるのも、すごく冷静に読まれてるからこそって感じだし。
私なんかもうただただこわくて・・・(しつこい^^;)

その後はどうされるのかな?
私も黒猫館までしか読んでなくて、
(友達に借りた当時、黒猫館までしか出てなかった)
次を読もうにも、ホントすごーく長そうなので
そこで止まってます。。。
あと綾辻さんの、「霧越邸~」も読んだんですけど、
なんか不思議な話でした。
(って綾辻さんのはどれも不思議かもしれないけど^^;)
2011-09-29 Thu 14:12 | URL | みかん #AsQ122z2 [内容変更]
>みかんさん
そう、トリックの方向性は合っていたんだけど、
これは正確に当てられないとあまり意味ないのかな~と思って^^;
次々殺人が起こるのはほんとに怖かったですよね。
館の成り立ちにあんな理由があるとは思わず、本当に凄いと思いました。

最初のあの殺人の直後からトリックと犯人を疑っていたので、
きっと再読してる感じで怖さが半減したのだと思う^^;
十角館のときはそりゃもう怖くて、トイレも行けなかったもん^^;
ふふ、島田にツッコみすぎちゃったかしら^^;
本当もう読んでて、いろいろ苛々しちゃって・・・。

それもこれも、ここまでずっと間を空けずに連続で読んできたせいで、
綾辻さんの傾向が読めてしまったせいかなぁと思って。
他のを読んで、一度リセットした方がいいのかな?って感じたんです。
ミステリ、当てるよりもやっぱり騙されてびっくりしたいのに、
残念な読み方になってるのかもしれないなぁと^^;

みかんさんも黒猫館までなんですね!
綾辻さんだから、きっとすいすい読ませてくれるとは思っても、
あの暗黒館の長さにはちょっとひるみますよね^^;
「霧越邸~」も本格物だと思っててたんですが、
不思議要素もあるお話なんだ~。
この館シリーズにちょっと関係すると聞いたので、いつか読むつもりです^^
あと、怖そうだけど「Another」も。
2011-09-29 Thu 20:07 | URL | こゆりす #- [内容変更]
おはよ~^^

ラスト十六章のあたりから
これ読んだら寝れないと思い、就寝。
朝方起きて読んでました(笑

う~~~ん。
私もあらかた、こゆりすさんと同じく大体のトリック、
動機などが分かってしまったのが残念だけど
やはりこれは、ずっと綾辻さん読み過ぎで
傾向と対策(笑)が分かってるからだな~と思う。
なるほど、こゆりすさんが島田が嫌いって理由も凄く納得しちゃった!

私は由季弥が残念だな~。
線が細く美少年で屋敷の後継者…と言いながら
それを生かせてない感じが(-ε-)ブーブー
最終的につじつま合わせにだけ利用した(作者サイドがね)
って気がしていか~~ん!
美少年なんだし、言動が変なんだし、もっとこう
…かき混ぜてもよかったんじゃな~~い?と勝手な理屈(笑

ああ、でも、映画を見ているような、ってのが当てはまりました。
一連の綾辻さんの作品って映像化が難しいじゃないですか?
十角館にしても、人形館にしても。
でもこれはがんばれば映画なり、2時間ドラマいけそうかな~なんて、TVっ子な発言でした(笑
…長くてスイマセン(>_<)
2011-12-04 Sun 09:10 | URL | ミュシャ #- [内容変更]
>ミュシャさん
おおっ、「時計館」も看破したんですね!
というか、シリーズ全作正解されてるような・・・(驚)
ミュシャさんにはちょっと簡単すぎたかしら^^;
私の場合は特に「傾向と対策」がわかってきたせいだと思う。
推理小説で解けた試しって、今までほとんどないんですよ^^;

島田にイライラする感じ、わかっていただけます?笑
彼は警察ではなくて探偵役だから、正義の味方じゃないのも仕方ないのだろうけど、
そりゃ無いぜ~っていう数々が爆発したのがこの「時計館」だったもんで。。

>私は由季弥が残念だな~。
いわれてみれば、そうですね。
行き着くところはあそこだとしても、あの個性でもって
その過程でもっと思いっきりかき混ぜてくれても面白かったですよね^^

うん、これは映像化できる!と私も思った^^
次々人が殺されるところは目で見ててもすごく怖いだろうし、
最後のところなんか、うまく作れば壮観なラストになりますよね、きっと。
でも、これだけの作品を映像化するんなら、中途半端な安い作品にだけはしてほしくないという気持ちも。
気合いの入った映像化、見てみたいですよね^^

ミュシャさん、もしかしてもう「黒猫館」読み始めてます?
私、まだ1/3ほどしか読めてなくて、追い抜かれるのも時間の問題だなぁ。
「暗黒館」も買ってはいるけど、かなりの長編だし、
「黒猫館」読み終わったらどうしようかなぁ^^;
2011-12-05 Mon 11:08 | URL | こゆりす #- [内容変更]
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