【インシテミル】米澤 穂信


「ある人文科学的実験の被験者」になるだけで時給十一万二千円がもらえるという破格の仕事に応募した十二人の男女。とある施設に閉じ込められた彼らは、実験の内容を知り驚愕する。それはより多くの報酬を巡って参加者同士が殺し合う犯人当てゲームだった──。


これ、映画を先に観にいったのですが、
本の方が圧倒的に面白いという声が多かったので
久々のミステリー読み。
子どものときは趣味は読書と言い切れるくらい
無類の本好きだったとのに、
いつのまにか随分と本を読むことから離れてしまったここ数年・・・。

いや、これ面白かったです!
特に後半はぐいぐいと引き寄せられ、
他のことはそっちのけで、三日ほどで読んでしまいました。
確かに映画とは全くの別物。

ネタバレしないよう心がけてはいますが、
念のためこれから読む方はご注意を。


完全なクローズドサークルで、殺し合いをさせようという話にも関わらず、
飛びぬけた楽天家の主人公目線で読むため、
それほど陰鬱とした気分になりません。
暗鬼館でのルールや設備は恐ろしいほど徹底され、
殺人者から逃げられない・互いを信じられない状況を作り出す。
それでいて、初の殺人が発覚した三日目の長い夜の恐ろしさときたら、それはもう!
読んでいて、同じ一晩を明かしたような気分になり、
登場人物同様、朝が来て心底安堵したものでした。

推理は実に論理的で、ほほぉ~と感心させられっぱなし。
やや引っかかったのは主人公が前半はあまり目立たない存在だったのに、
いきなり名探偵化したこと。
それほど頭が回るなら、途中までリーダー格だった参加者のように
第二・第三の殺人を防ぐことに頭を使えばいいのに…
と思ってしまうほど、後半主人公が展開したロジックは凄かった。
ロジックがしっかりしているので、多少の矛盾は私は見逃せました。

一般的なクローズドサークルとは異なり、
殺人ゲームという特殊な舞台なので、長々とした犯人の動機の独白や、
こんな酔狂なことを企画した主催者が何者かなどという無粋な解説は
ばっさりしなかったのも良い。
最後に続きを想像させる描写もありますが、
出せる限りの要素はほぼ出し切っているように思えたので、
続編はないだろうと思いました。

古典ミステリーを小道具に使っていて、
それでいて、ミステリ読みに対する皮肉を混じり
ミステリー好きな方も、そうでない方も楽しめる作品ではないかと思います。
デスゲーム的な作品を好まない方にはオススメできません。
ちなみに私は、アガサ・クリスティの作品は昔結構読んだのですが、
どういう訳か名作である「そして誰もいなくなった」だけは
殺人が起こる前に途中で読むのを中断した記憶が・・・理由は覚えてませんが。
本はあるから、もう一度挑戦してみようかな。


大まかなルールや、館内での設定などは映画も踏襲していますが、
被害者や犯人、生き残る人も違うし、
主人公を含めた登場人物のキャラも全く違う。
原作では後半まで主人公とずっと一緒に行動していた人物が
豹変するのが面白かったりしたんだけど、その人も映画では全くの別人格だったり。

こんな危機的状況なのに、なぜ誰もこうしないんだろう?と
ツッコミどころが多かったのも、ルールが大雑把だったせいなのかと納得。
犯人を監獄送りにする参加者の多数決においても
「最後に現場に来たから犯人」とか「ミステリー好きだから犯人」とか、
推理とか論理なんぞはへったくれもありません。(その多数決でさえ一回だけ)
原作から映画を観る場合は、ジャンルもストーリーも全く別の、
デス・ゲームとして観た方が良いと思います。

生き残って得たお金を受け取るか否か・・・
こんな汚いお金受け取れるか!という清廉な行動よりも、
しっかり受け取った方が人間味があって、私は好感が持てました。


最後によくよく考えたらおかしいと思ったこと。
ネタバレなので反転します。

なぜ犯人は10億円もの大金が必要になったのか?
動機の詳しい説明は上にも書いたとおり必要ないと思うが、
須和名のような大金持ちならともかく、
一般人が必要とする金額にはあまりに突拍子のない金額に感じる。
10億ではなく、1億ならまだありえるかも…と思ったり。

仮に1億が必要だったとしたら・・・ちょっと計算してみた。
何も行動しなければ、時給11万2千円×24時間×7日で1881万6千円。
確実に増やすなら、殺人1回とその解決1回で2×3倍、
6倍で1億1289万6千円。
12時間早く脱出しても、1億を超えるので足りないということはない。

結城がしがない大学生なら尚のこと、
私と同じく指1本1億という発想の方が自然ではないだろうか。
だからあの場面で足りないはずだと思い立ったのは、
よくよく考えたら不自然。

指1本が1億ではなく10億だった理由は、
金額のインパクトの強さ。
被害者(殺人)の数を増やすこと。
あの凶器だと、二人殺すのはかなり難しいのに
とっさの機転でそれを実行した犯人の頭の良さを際立たせるため。
脱出することで10億に満たなくなったために、
ラストに犯人と主人公にあの行動を取らせたいがための
作者の都合、というのが妥当な解釈でしょうか。
関連記事
別窓 | 映画・小説レビュー | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨
<<芳香蒸留水の化粧水(ジャスミン編)2 | シンプルにいこう。 | #48 藍*竹塩>>
この記事のコメント
∧top | under∨
コメントの投稿

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
トラックバックURL

∧top | under∨
| シンプルにいこう。 |